11月16日(土)の『あるいは佐々木ユキ』初めての海外上映のために、福間監督は11月11日早朝ニューヨークに到着しました。
福間監督35年ぶりのNY。寒さ対策をと知人・友人みんなから言われていた以上の寒さで、身がひきしまります。福間監督の都合上、上映会は帰国前日というスケジュールでのNY滞在。16日夜までの時間を、監督はマンハッタンのなかを精力的にまわりました。

Kenji Fukuma4*

滞在したホテルは、高いビルばかりに囲まれたミッドタウンのど真ん中。あのマディソン・スクエア・ガーデンが正面にある繁華街です。NY在住25年の友人に言わせれば、ここは新宿歌舞伎町だと! たしかにそのとおり、昼夜を分かたず観光客もここで働く人々もあふれるようにうごめいています。
あのエンパイア・ステイトビルも、すぐ近くにあることに夜になって気づきました!

NYエンパイア*

さて、福間監督のマンハッタンでの大きな収穫は4つ。
ひとつ目は、詩人ディラン・トマス研究者のひとりとして訪れなければならなかったチェルシーホテル。著名人が数多く泊まったホテルとして有名なところですが、ディラン・トマスは朗読のためにここに滞在し、近くのバーで急性アルコール中毒を起こし病院に運ばれ亡くなったといわれています。チェルシーホテルの玄関には、そのことを記したプレートがありました。

NYディラントマス*

次もまた詩人です。W.H.オーデンが20年ほど暮らしたアパートメント。ここは『ユキ』を上映したアインシュタインホールからほど近いイーストヴィレッジにあるのですが、番地がなければ決して見つけられない古びたアパートでしかない場所。なんとトロツキーもここで暮らしたことがあるとのこと。そんなところなのに、まったくなんのマークもなし。友人に教えてもらわなければ絶対に行けなかったでしょう。1階はメキシコ料理店でした。

三つ目は、先頃亡くなったルー・リードが、ヴェルヴェットアンダーグラウンドの頃に暮らしていたというチャイナタウンにあるアパートメント。ルー・リード追悼の原稿を依頼されていた福間監督は、NYで何か手がかりをつかみたいと思っていたので、友人からのこの情報はありがたかったのです。かつてその人間が暮らしていた場所というのは、やはり何かを想起させるものがありますよね。 
その意味でNYという都会は、長くはない歴史とはいえ膨大な数の文学やアートや政治の分野の人々の痕跡があちこちにあるところだといえるのでしょう。

そしてもうひとつは、マンハッタンの喧噪から逃れた北の丘にあるクロイスター美術館を訪ねての帰りの路線バス。マンハッタンの北からミッドタウンまでを縦断する約2時間のバス旅。マンハッタンという土地の貧富の縮図がくっきりと見えてきました。この興味深い旅をメトロカードで出来たなんて、やったね! という「観光」。
それにしても、セントラルパークを我が庭のように眺望する億ションに住む人々は、それはそれはハイソな風情でありました!

そんな貴重な体験をへて、いよいよ16日の上映がやってきました。
ニューヨーク大学のEinstein Auditoriumの入っている校舎は、ワシントンスクエアそばに多くある校舎から少し東に位置し、日本食レストランなどが多い活気に満ちた学生街にあります。下北沢を彷彿とさせる感じかな? アインシュタインホールは校舎の1階にあり、70〜80人ほどが入れるゆるやかなすり鉢型になっていて、講演や映画上映にいい環境です。
18時、アインシュタインホールに入った福間監督。ちょっと緊張気味ですが、気合いが入っています。

NYU写真1*

今回の上映を主催してくださったNYU講師であり造形作家の砂入博史さんと、そこへとつないでくれたアーティストの西脇エミさん、そしてわが町国立からのつきあいでNY在住25年のアーティストひろみちゃん+前原くんが準備を手伝ってくれて19時を迎えました。

ホールの都合で朗読を先に始めることになり、19時10分朗読スタート。砂入さんの紹介で福間監督は挨拶してから始めました。朗読は日本語で行なって、バックスクリーンにその英訳を流すというかたち。
光る斧/トラブル/むこうみず/最新型のきみ/旅の宿題/いま/誘惑/青い家
これら8篇の詩を読みました。



19時半から『あるいは佐々木ユキ』の上映。会場には、NYUの学生や在NY在住の日本人の人たち50人ほどが来てくれました。上映はブルーレイで行なったのですが、再生デッキもプロジェクターもすばらしくて、音も映像もこれまでにないほどいい状態で観ることができました。福間監督、大感激!
終わって、福間監督はスクリーン前に立ち、砂入さんが観客に質問などを促します。
さすがに日本とはちがって、すぐに質問が次々と。もちろん英語での質疑応答。福間監督、いつもの饒舌とはすこしちがう?

最初の質問は、「キャスティングはどのように行なったのか」と。
これまでにもよく尋ねられたことですが、大学の教え子と友人のなかから、つまり身近なところから選んで、プロはひとりだけだと、福間監督は答えました。

次の質問です。
「3.11前に撮影されているとクレジットにあったけれど、『もっとしずかにあけてやらないと そのふた、獰猛になるよ』というフレーズにあるように、ふたが開けられて何かが出てきているように感じた。どういう編集があったのですか?」。
福間監督は答えます。「編集に取りかかるまでにも時間があって、1年以上かかって完成させた。考えに考えて、捨てなければならなかったパートもある。モノレールからの景色がsense of movement(運動の感覚)を出すものとして意識して使ったことが大きいと思う」。

つづいての質問「詩を朗読していた女の子はどういう人ですか」について、福間監督はまず文月悠光さんが中学時代から天才詩人として登場したいきさつを話しました。そして映画の最初の4分の1は、子どもがどう大人に成長していくのかを示したかった。文月さんにも自分のことと今の子どもへの観察を語ってもらい、さらにアゴタ・クリストフの短篇の孤児の言葉を使った。人間を二つのタイプに分けたときに、親の元に育った人間と孤児で育った人間とがいる。前者の、誰にでも孤児だったらよかったのにと思う部分がある、それがユキのなかからユキbとして現われた。そう福間監督は語りました。

4人目に手を挙げた人は、素人の役者をなぜ使ったのか、どのように演技してもらったのかという質問です。
福間監督「プロの役者だとある程度ゴールが決まっているので、あまり使いたくない。ユキ主義と同じように自分も『決めないで始める』ことが好きだ。演技は基本はシナリオ通りではあるけれども、シナリオも本人そのものが出るように相談しながら作っているので、半分は本人が持っているものが出ていると思う」。



さらに質問は続きます。若い男性です。
「自分も監督だが、『あるいは佐々木ユキ』はなぜノーライティングなのか」。
福間監督は、まずローバジェットであることから来ること、次に冬の自然の光をちゃんと撮れればこの映画は成立すると考えたこと。そこはカメラマンの鈴木一博さんの力を信じていたから可能だった、そう答えました。

時間もだいぶ押してきましたが、最後に出た質問は、これまでもよく尋ねられたことでした。それは「詩と映画の関係についてどう考えているか」です。
「ぼくの場合は、詩よりも映画が先にあったけれど、詩を書くのは大変で孤独な作業。映画は他人と関わることが入ってくる、さらに今では映画は詩集一冊出すくらいの低予算で簡単につくれることも加勢してきている。そういうなかで詩と映画がとても近い場所にある表現になっているともいえると思う」。そんなふうに福間監督は答えました。

NYU写真2*

たくさんの質問をもらって、この映画により近づいてもらえた感触を得て、福間監督は心からのお礼の言葉をのべて、アインシュタインホールでの上映会は終了しました。
終わってもなお、歓談はつづきました。日本の友人から連絡を受けて観にきてくれた人たち、NYジャパンシネフェストの人などなど、福間監督はさまざまな分野の人と出会うことができました。そして、結婚して1年半前からNYに住んでいる、15年前にウェールズで出会って親しくなった友人ロイド・ロブスンとも10年ぶりの再会。さらに、驚くなかれNY上映のニュースを聞いて急きょNYに来ることに決めた、『ユキ』音楽のピアニスト大川由美子さんもいたのでした!

打ち上げは、近くにあるラーメン屋さん。店内の様子も働く人も居酒屋メニューも! じつにじつに日本でありました。キリン一番搾りで乾杯! 目移りするほどあるメニューの中から福間監督はカレーラーメンを。おいしかったそうです! 驚くほど物価の高いNYですが、さすがにこのあたりは学生街だけのことはあって、リーズナブルなお値段で安心して飲めました。

NYU写真打ち上げ*

日本の映画からNYのアートシーンまで、話は尽きないけれど、そろそろお開きです。NYは終電がないのがコワイ一方で、帰りの時間を気にしなくていいなんてすごいなあと思っちゃいましたね。
今回の貴重な機会を作り出してくれた砂入博史さん、準備に奔走してくれた西脇エミさんとニイゼキヒロミさん、心から感謝しています。そして、アインシュタインホールに足を運んでくださった多くの皆さん、ほんとうにありがとうございました。またきっと次の機会にお会いしましょう!


★翌日17日(日)、早くも第1弾のレヴューが「ASK A NEWYORKER」というWebマガジンに掲載されました! 書いてくれたのは詩人のGarrett Buhl Robinson。福間監督はNY市立図書館に行ったときに、入口近くで自分の詩集を売っていた彼に話しかけ、踊る女の子をテーマにした詩集『MARTHA』を買い、上映に誘ったのです。この出会いから、このすばらしいレヴューが生まれました。ぜひ、読んでください!
http://www.askanewyorker.com/garrett-robinson/live-fairy-tale-fukuma-kenji/

 
★福間監督は、滞在中に「COOL」というバイリンガルアートマガジンWebサイトのインタヴューを受けました。インタヴューしてくださったのは、同誌で多くのインタヴュー記事や批評を書いておられる岡本太陽さんです。その記事がアップされました!
これまで日本では出されなかった視点からの質問もあって、とても興味深いものになっています。どうぞ読んでください!
なお、今回のニューヨーク大学上映レポートの最初に登場する福間監督単独の写真は、岡本太陽さん撮影のものです。岡本さん、ほんとうにありがとうございました!
日本語:http://www.cool-ny.com/archives/1918
英語:http://www.cool-ny.com/en/archives/1918


宣伝スタッフ Astoria Blvd
動画・写真  Kuni Maehara