大阪は十三にある第七藝術劇場。歓楽街のど真ん中、大きなボーリングのピンが目印のビルの6階に、われらがナナゲイはあります。福間監督作品は、『岡山の娘』以来、ナナゲイで上映していただいてきました。

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6月1日土曜日、『あるいは佐々木ユキ』初日の夕刻に、十三の駅に降り立った福間監督。とたんにニコニコ顔に変身しました! 福間監督は、ご承知のようにふだんから元気ではありますが、大阪に来るとやんちゃな子どもになったように、いちだんと溌剌としてくるんですねー。
今回は、初日と2日目の2日にわたって、福間監督の朗読と挨拶を行ないました。

初日20時30分、ナナゲイのロビーにはたくさんのお客様がいらしてくださっています。今夜は若い男性が多い! うれしいなあ。
2月の神戸映画資料館での上映のときに対談をしてくださった細見和之さん、小林政広監督と小林直子プロデューサー、そしてこの4月から大阪に転居した、『わたしたちの夏』と『ユキ』編集の秦岳志さんも来てくれています。

20時40分、福間監督が登壇して、詩の朗読です。この6篇は『あるいは佐々木ユキ』上映前朗読の定番詩となりました。
「むこうみず」「トラブル」「週替わりの部品交換」「青い家」「光る斧」「もうすこし」。
タイトルを並べてみて、その言葉から『ユキ』を空想してしまうのは、内側の見方でしかないでしょうか……。

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上映が終わり、松村支配人の紹介を受けて福間監督はふたたび登壇しました。
「ここまで自分で何度も見て、舞台挨拶も重ねてきて、つくった自分でも『ユキ』がどんな映画なのかわからなくなってきているところがあります」と始めました。
「ひとりの女の子の話ではなく、誰でもないけれど誰でもある、そういう話をファンタジーとして、詩やおとぎ話をまぜこんでつくりたかったんです。言葉でこの世界を知り、言葉を打ち負かすような現実に出会いたい。言葉と映像がぶつかりあうような映画にしたかったんですね」。

ここで、男性から質問が出ました。
「たくさんの詩が使われていますが、これほど入れたのは何か意図があったのですか?」。
福間監督は答えます。
「プロデューサーや他の人たちから、あまり詩は使わないほうがいいという意見が出ていたので、今後使わせてもらえないかもしれない、というわけで、どんどん入れていったんです。はじめから決めてあったものもあったけど、夕暮れのアパートのユキの孤独な気持ちが出ているところ、あそこはたまたま『青い家』を持ってきたらぴったりはまった、という使い方もしました。表現するということにおいて、自分のすべてを入れるとなると、ぼくの場合そこには詩があるわけですね。まあ、詩は長年やってきてますけど、映画はやっと映画学校卒業できたか、というところでしょうか」。

それから福間監督は、よく言われているモノレールからの風景について説明しました。
「これの撮影は、3.11のちょうど1週間前にしました。編集にとりかかるのはずいぶん先になったのですが、ラッシュを見て、高い位置からの景色というのは、空間のみならず時間の感覚もずいぶん違って見えてくるものだと気がついたんですね。それで、この風景に、千石先生自身の過去からの時間を語る声をのせたんです。それから、ラストでは、3.11以降にもつながっている時間なのだと感じられるようにしたつもりです」。
というところで、福間監督はあらためてみなさんにお礼を言って舞台挨拶を終えました。

ナナゲイはいつも、監督挨拶のあとの場として、劇場のドア外にテーブルを用意してくれていて、そこでサインをしたり、それぞれの感想を伝えてもらえるようになっています。場内では言いそびれたけど、こういう場でならという感じで「よかったです!」と声をかけてもらえるのは、監督にとってとてもうれしいことですね。




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さて、6月2日(日)、上映2日目もまた若い人がたくさん来てくださいました。今日はとりわけ女性が多いです! そして、なんと、同じビル5階のシアターセブンで新作3本上映を行なっているダーティ・工藤監督も見にきてくれました!
ダーティ・工藤監督(福間監督は工藤くんと呼びます)と福間監督は、石井輝男監督ファン同士として出会った古い仲。このところご無沙汰していたふたりですが、時期を同じくして5階と6階でそれぞれの作品を上映・挨拶という思いもかけぬ偶然!
「今は亡き石井監督が、オレと健ちゃんを大阪でひきあわせてくれたんだよ!」と工藤監督。
2日目の福間監督は、若い女性と旧友、それだけでめちゃうれしそうです!

今日も福間監督は朗読から上映に入り、終わってから挨拶に立ちました。
2011年1月に行なった6日間の撮影の様子を説明しながら、とりわけ鈴木一博カメラマンのすごさと主演の小原早織さんのカンのよさに、自分はほとんど何もしてないみたいだった(!)と語りました。
若い女性から質問が出ました。
「ユキは、お父さんのことを軽蔑していると語っていますが、『人間、生きていればいい』というお父さんの言葉をいつも心においていますよね。ほんとうはどう思っているんでしょうか」と、鋭い指摘です。
「うーん、そうですよね……。お父さんに対して、単に軽蔑だけではない気持ちがありますよね。ユメの中でも父と兄に声をかけようとしている。でも届かない。でも、『生きていればいい』という父の言葉は心に引っかかっている……。ぼくには子どもはいませんが、もし自分が親だったら子どもが高校卒業と同時に100万ぐらいお金を渡して自分で生きていきなさい、という考え方なんです。ユキの母にそれをさせていますが……。うまく言えませんが、ぼく自身が親に対して持っている気持ちが、ユキの親たちに、ちょっとねじれたかたちで出ているのでしょうか……」と、福間監督。
もう時間です。福間監督はお礼を述べて、舞台をおりました。

今日もまた、ひとり、ふたりと感想を伝えてくれる人がいます。2月の神戸映画資料館のときのチラシを手にしていて、ぜひ見たいと思っていた、という若い女性と若い男性。関西は、大阪と神戸と京都がこんなふうにつながるのだなあと、ナナゲイに来るたびに思います。ほんとうにありがとう!

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この夜はもちろん、ダーティ・工藤監督と松村支配人と久々の乾杯です。自作の上映の合間に、大阪で撮影しつづけたという工藤監督。
「石井さんがオレたちに残してくれたのは、映画を撮りつづけるということだよな、健ちゃん!」。
その上映を実現してくれる第七藝術劇場、松村支配人とスタッフのみなさんに、そしていらしてくださったみなさんに、あらためて感謝します。
ありがとうございました!

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『あるいは佐々木ユキ』は、7日(金)まで上映しています。
関西のみなさん、どうぞこの機会をお見逃しなきよう、十三まで足を運んでください!
20時40分上映開始です!


宣伝スタッフ だし巻きタマゴ