4月9日火曜日。渋谷の街も新緑が勢いを増しています。
今日のトークゲストは、女優の山田真歩さん。『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』や『サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』などの主演をはじめ、テレビドラマや芝居で活躍中の真歩さん。
『あるいは佐々木ユキ』を、ポレポレ東中野の最終日にたまたま見てくださったことがきっかけで、トークに来ていただくことになりました。

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今日も真歩さんは映画を見てくださってから、トークは始まりました。
福間監督が真歩さんを紹介すると、「今日は、ほんとうに不安でいっぱいなんです」と、緊張した面持ちの真歩さん。
でも気を取り直して、キリッとした目で話し始めました。
「思っていることをちゃんと言うつもりです。作品全体についてですけど、すごくバラバラだなという印象。ふつうの映画だと、ストーリーがある、ドラマが進む、なんだけど、冒頭のインタビューと子どもたちが出てくるところ、ドキュメンタリーみたいに……」。
福間監督「あれは、まず詩人の文月悠光さんに、自分もふくめた子どもが成長する過程について語ってもらった。それにアゴタ・クリストフの孤児の物語をつないだ、そうしたら小学校の子どもたちを入れたいなと思って撮りに行った、というわけ」。
真歩さん「そこでつながってくるんですね。わかりませんでした……」。
福間監督「自分の子ども時代じゃなく、全体を持ってきてもいいと。佐々木ユキだけど、誰でもユキでありうる、女の子はみんなユキ的にしようと……」。
真歩さん「しようというのは、福間さんが考えた……」。
福間監督「こういうゴールで行こうというのは、撮りながらすこしずつ決まっていった、のかな」。
真歩さん「台本はなかった? そこにびっくりした! ポレポレで初めて見たとき、何の予備知識もなかったので、見ながらずっと若い監督なのかなあと思ってた。でも、カルタのところで、年とった人かなあと……。見終わって出ると、サンタクロースのような人が監督だった!(場内笑)。福間さんの中ではつながりがあるかもしれないけど、どのシーンを取り替えても、大差ないのかなとも思います」。
いやー、真歩さん、飄々とさりげなくだけど、たぶん図星でしょうね。福間監督、ちょっとうろたえてる?

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真歩さんは続けて言います。
「個人的には、文章を書くときに、わかりやすくしたい、伝えたい、共感できるようにしたいとやってきたけど、福間さんはそうじゃないんですね?」
福間監督、少々困った様子……。
「ひとつひとつはわかりにくくないでしょ」。
「それはわかる……。わたしは、わかりやすい文章を書くことがつまらないと思うようになってきて、どうしたらいいのかと。そういうときに『ユキ』を見た。説明してない、という印象ですね」と真歩さん。
福間監督「ぼくは、わかりやすさに抵抗があるわけじゃないけど、ひとつの対象をきちんと描写するとか、凝縮していくとかに退屈しちゃうんだよね。知ってる場所が違う場所になるようにしたいというか……」。
今日の福間監督、どうもちょっと歯切れが悪いみたいですねえ……。

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「ユキが自分の名前を言って自己紹介するところ、力が入るけど何度も言ってますよね」と真歩さんが言います。
福間監督「撮ってるといろんな音が入ってくる。じゃあ、林の中で撮ろう、また音が入る、もうひとつ撮ると電車の音が入ってくる。『ユキです』と言っても世界が邪魔してくる。うまくいかないことを排除してつくることにつまらなさを感じちゃうんですよね。NGを二つやって、OKだとする。でも、もしかしてNGを使った方が面白いんじゃないか、NGのなかにも平均点以上のものがあるんじゃないかと。だからあやういもののときは、全部使っちゃえと」(場内笑いと驚き)。
真歩さん「すごい! おもしろい! 全部使うなんて初めて見た! びっくりです。こういうタイプの映画に出たことないから、役者の視点で、自分だったらどうしたらいいか途方に暮れますね。日常生活で『わたしは真歩です』みたいなものは、別世界のようなセリフですよ」。
「自分が名乗ること自体のパフォーマンス性はつよいよね」と福間監督。

真歩さん「人魚ひめを読むところもだけど、セリフが詩っぽい。読みにくいのでは? たとえば、みそ汁に大根とあったら、わたしはなんで大根?ってすぐ考える。今までの考え方では対処できないと思う。それから、おじさんの声で詩を読んでたの、うまかったよね」。
「あれ、ぼくなんです」(大爆笑)。
「えっ!」
「ピアノとのライヴの音なんだけど、入れてみたらうまくはまった」
「また最初は考えてなかったんですね」(笑)。
真歩さんは、このごろ詩に興味をもつようになったので、どんなふうに朗読するのかと質問攻めですが、もう時間が押しています。

今日の山田真歩さんとのトークでくっきりと見えてきたのは、福間監督が撮影中にどんどん横道にそれたり、偶然に起こることを大胆に取り入れたり、つまりは撮影と編集と音にどれほど助けられて映画を完成させているかということです。でも、こういうあり方もあっていい、それはじつはすごく面白い、そう言ってくれている真歩さんのような気がします。
福間健二の詩を読んでいる人には、彼の詩の「わかりにくさ」と映画のそれとがほとんど同じであることを再認識されたことでしょう。
山田真歩さん、今夜は本当にありがとうございました。

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さて、真歩さんにつづいて「福間監督を斬る」だろうと予想される13日(土)の「福間映画三銃士」(撮影/鈴木一博さん+編集/秦岳志さん+音響設計/小川武さん)と主演の小原早織さんの4人のトークが、ますます楽しみになってきましたね。
『あるいは佐々木ユキ』はその13日からは、20時50分上映開始となります。トークは上映後です。
どうぞお間違えなきよう、ぜひともお越し下さい。


宣伝スタッフ ぶー子
写真撮影   加瀬修一